看護師から保健師への転職を考えていても「後悔しないか」と不安を感じている人も多いのではないでしょうか?
この記事では、転職経験者による後悔の具体的なパターンやリアルな体験談を詳しく紹介。さらに、後悔を未然に防ぐための準備やポイント、万が一後悔した場合の対処法まで解説します。
この記事を読めば、保健師への転職における失敗例とその乗り越え方が分かり、後悔しないための道筋が見えてくるでしょう。
看護師から保健師に転職して後悔する5つのパターン

看護師から保健師への転職は、キャリアチェンジとして魅力的な選択肢の一つですが、実際に転職してから「こんなはずじゃなかった」と後悔を感じてしまうケースも少なくありません。ここでは、よくある後悔のパターンを5つご紹介します。
- 給与面での後悔
- 仕事内容への後悔
- 人間関係への後悔
- スキルアップ・キャリアアップへの後悔
- ワークライフバランスへの後悔
給与面での後悔
看護師から保健師に転職して、まず直面しやすいのが給与面でのギャップです。特に病棟勤務の看護師の場合、夜勤手当や残業手当が給与の多くを占めていることがあります。保健師は基本的に日勤のみで夜勤がないため、これらの手当がなくなり、結果的に年収が下がってしまうことが多いです。
以下の表は、一般的な給与構成要素の違いを示したものです。
看護師(病棟勤務例) | 保健師(行政保健師例) | |
基本給 | 一般的 | 一般的(公務員給与規定に準ずる) |
夜勤手当 | あり(回数による) | 原則なし |
残業手当 | あり(部署や時期による) | あり(部署や時期によるが看護師より少ない傾向) |
特殊勤務手当など | あり(危険手当など) | 職場による(多くはない) |
賞与 | あり | あり(公務員規定に準ずる) |
公務員保健師(行政保健師)の場合、給与は地方公務員の給与規定に基づいており、大幅な昇給が見込みにくいと感じる人もいます。産業保健師の場合は企業によって給与水準が異なりますが、看護師時代の給与を維持・向上させるには、経験やスキルが求められる傾向にあります。

転職前に、希望する働き方の給与水準や昇給体系をしっかり確認しておくことが重要です。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」でも、職種別の平均賃金を確認できます。ただし、保健師は「その他の保健医療従事者」に含まれる場合があり、単純比較が難しい点に注意が必要です。
仕事内容への後悔
看護師と保健師では、対象者や関わり方、業務内容が大きく異なります。このギャップに戸惑い、後悔を感じるケースも少なくありません。
看護師は、病気や怪我を抱える患者に対し、診察の補助や注射・採血、バイタルサイン測定、清拭・食事介助といった直接的なケアや処置を行うことが中心です。一方で保健師は、地域住民や従業員といった比較的健康な人々も含めた集団を対象としています。病気の予防や健康増進のための保健指導、健康相談、データ分析、関係機関との連携・調整、書類作成などのデスクワークが主な業務です。
具体的には、以下のような点で後悔を感じやすいです。
- 直接的なケアの減少
- 「患者さんのそばでケアをしたい」「医療処置で貢献したい」という思いが強い方は、保健師の業務内容に物足りなさを感じることがあります。目に見える形での回復や感謝の言葉が少なく、やりがいを感じにくいと感じる人もいます。
- 事務作業の多さ
- 健康教育の企画や相談業務だけでなく、報告書作成、データ入力・分析、関係各所への連絡調整といったデスクワークが想像以上に多いことに驚くことがあります。PCスキルが求められる場面も増えています。
- 成果の見えにくさ
- 病気の予防や健康増進は、効果がすぐには現れにくく、長期的な視点が必要です。看護師時代の「治療による回復」のような明確な成果が見えにくいため、モチベーション維持が難しいと感じることがあります。
- 多様な対象者とのコミュニケーション
- 健康への関心が低い人や、様々な背景を持つ人へのアプローチが必要となり、看護師時代とは異なるコミュニケーションスキルや根気強さが求められます。時には、指導やアドバイスを受け入れてもらえないこともあります。



転職前に、保健師の具体的な仕事内容、特に地道な側面や困難な点についても理解を深めておくことが、ギャップによる後悔を防ぐために大切です。
人間関係への後悔
働く上で人間関係は非常に重要ですが、保健師への転職後に人間関係で悩むケースもあります。看護師時代の職場環境との違いが原因となることが多いです。
- チーム体制の違い
- 病棟看護師は、医師や他の看護師、コメディカルスタッフと密に連携し、チームで患者さんをケアすることが一般的です。一方、保健師は、職場によっては保健師が一人だけ、あるいは少人数しか配置されていない場合があります。相談相手が少なかったり、一人で判断・行動しなければならない場面が増えたりして、孤独感やプレッシャーを感じることがあります。
- 異職種との連携の難しさ
- 行政保健師であれば、事務職や福祉職、企業保健師であれば人事労務担当者など、看護・医療分野以外の職種と連携する機会が多くなります。価値観や仕事の進め方の違いから、連携がスムーズにいかず、ストレスを感じることがあります。
- 閉鎖的な環境
- 特に小規模な事業所や、保健師の配置が少ない部署では、人間関係が固定化しやすく、もし相性が合わない人がいた場合に逃げ場がないと感じることがあります。
- 独特の雰囲気
- 行政機関や企業など、病院とは異なる組織文化に馴染めないと感じる人もいます。年功序列の傾向が強かったり、独自のルールや慣習があったりすることもあります。
転職活動の際には、可能な限り職場見学をさせてもらい、職場の雰囲気や一緒に働くことになる人たちの様子を確認することが大切です。



面接で質問するなどして、保健師の人数やチーム体制、他職種との連携状況などを把握しておくことも有効です。
スキルアップ・キャリアアップへの後悔
看護師には、認定看護師や専門看護師といった専門性を高めるための資格制度やキャリアパスが比較的明確に存在します。
しかし、保健師の場合、看護師ほどキャリアパスが体系化されていない、あるいは分かりにくいと感じることがあり、スキルアップやキャリアアップの面で後悔を感じる人もいます。
- キャリアパスの不明確さ
- 保健師としての専門性をどう高めていけば良いのか、将来的にどのような役職や役割を目指せるのかが見えにくいと感じることがあります。特に、行政保健師の場合、異動によって担当業務が大きく変わることもあり、一つの分野を極めにくいという側面もあります。
- 研修機会の少なさ
- 職場によっては、外部研修への参加が推奨されなかったり、費用補助がなかったりする場合があります。また、日々の業務に追われ、自己学習の時間を確保するのが難しいと感じることもあります。
- 看護スキル低下への不安
- 保健師の業務では、看護師時代に行っていた医療処置やアセスメントのスキルを直接使う機会が減ります。そのため、「臨床の勘が鈍ってしまうのではないか」「いざという時に対応できるか不安」と感じることがあります。将来的に看護師に戻る可能性を考えている場合、この点は特に気になるかもしれません。
- 専門性の評価
- 保健師としての経験やスキルが、他の職場や分野でどのように評価されるのか分かりにくいと感じることもあります。転職市場における自身の市場価値が見えにくく、キャリアの停滞を感じてしまうケースです。
保健師としてキャリアを築いていくためには、主体的に学習計画を立てる必要があります。学会や研修会に参加したり、関連資格(例:産業カウンセラー、衛生管理者など)を取得したりするなど、自己研鑽を続ける意欲が重要です。



転職前に、その職場でどのような研修制度やキャリア支援があるのかを確認しておくことも大切です。
ワークライフバランスへの後悔
「保健師は夜勤がなく、土日休みで定時に帰れる」というイメージを持って転職したものの、現実は異なっていた、という後悔もよく聞かれます。
- 残業の発生
- 保健師の業務は多岐にわたり、デスクワークも多いため、定時内に終わらないことも多いです。特に、健康診断の事後措置、特定保健指導の繁忙期、イベント準備、統計処理、議会対応(行政保健師の場合)など、時期や担当業務によっては残業が続くことがあります。
- 休日出勤の可能性
- 地域住民向けの健康教室やイベント、企業の健康関連行事などが土日祝日に開催される場合、休日出勤が必要になることがあります。また、家庭訪問などで時間外に対応することもあります。代休取得が推奨されますが、業務量によっては取得しにくい場合もあります。
- 精神的な負担
- 身体的な負担は看護師より少ないかもしれませんが、保健師は様々な悩みや問題を抱える人々の相談に乗るため、精神的な負担が大きいと感じることがあります。特に、複雑なケースや解決が難しい問題に関わる場合、プライベートの時間にも仕事のことが頭から離れないという声も聞かれます。
- 期待とのギャップ
- 夜勤がないことは大きなメリットですが、「絶対に定時で帰れる」「土日は完全に休み」と思い込んでいると、現実とのギャップに苦しむことになります。
もちろん、多くの保健師は看護師時代に比べて規則的な生活を送れるようになり、ワークライフバランスが改善しやすいです。しかし、勤務先や担当業務によって忙しさは大きく異なるため、「保健師=楽」というイメージだけで転職を決めるのは危険です。



転職活動においては、可能な範囲で情報収集することが後悔を防ぐポイントになります。
看護師から保健師への転職で後悔した3人の体験談


看護師から保健師への転職は、魅力的なキャリアチェンジに見える一方で、実際に転職してから「こんなはずじゃなかった」と後悔を感じる方も少なくありません。
ここでは、クラウドワークスを利用して寄せられた、看護師から保健師へ転職して後悔した方のリアルな体験談を3つご紹介します。
- 保健師の仕事内容のギャップに苦しんだAさん
- 職場の人間関係に悩まされたBさん
- 人間関係への後悔
保健師の仕事内容のギャップに苦しんだAさん
大学で看護師と保健師の両方の資格を取得していたAさん。病棟での急性期看護にやりがいを感じつつも、予防医療への関心から行政保健師への転職を決意しました。
実際に働いてみると、想像していた仕事内容とのギャップに苦しむことになります。
「看護師時代は、患者さんの状態が目に見えて改善していくことに喜びを感じていました。テキパキと処置をこなし、多忙ながらも充実感がありました。しかし、保健師の仕事はデスクワークや書類作成、関係機関との調整業務が想像以上に多く、直接的なケアの機会は限られていました。住民の方への健康相談や家庭訪問も行いますが、その成果がすぐに見えるわけではなく、地道な活動の積み重ね。看護師として培ってきたアセスメント能力やコミュニケーション能力は活かせるものの、臨床で使っていた注射や点滴などの看護技術を直接使う場面はほとんどなく、物足りなさを感じてしまいました。」
Aさんが感じた主なギャップは以下の点です。
項目 | 看護師(Aさんの前職:急性期病棟) | 保健師(Aさんの転職先:行政保健師)) |
主な業務 | 患者のバイタルサイン測定、点滴・注射、創傷処置、検査介助、急変対応、記録 | 住民からの健康相談(電話・窓口)、家庭訪問、健康教育の企画・実施、データ入力・分析、関係機関との連絡調整、書類作成 |
対象との関わり | 主に疾病を持つ患者への直接的な治療・ケア | 主に地域住民全般への相談・支援・予防活動 |
成果の実感 | 患者の回復や状態変化が比較的短期間で見えやすい | 活動の成果がすぐには見えにくく、長期的な視点が必要 |
必要なスキル | 臨床判断能力、看護技術、急変対応力、チーム連携 | コミュニケーション能力、アセスメント能力、調整能力、企画力、事務処理能力、PCスキル |
Aさんは、予防医療の重要性は理解しつつも、看護師時代のような「目の前の人を直接助けている」という実感を得にくく、モチベーションの維持に悩んだと語っています。保健師の仕事内容は多岐にわたりますが、その中心が「指導」「相談」「調整」「企画」であることを、転職前にもっと深く理解しておくべきだったと感じているそうです。
職場の人間関係に悩まされたBさん
Bさんは、ワークライフバランスを重視し、病院から企業の産業保健師へと転職しました。日勤のみで土日祝日休みという条件には満足していましたが、新たな職場の人間関係に大きなストレスを感じることになりました。
「看護師時代は、医療専門職同士でチームとして動くことが当たり前でした。忙しい中でもお互いをサポートし合う雰囲気がありました。しかし、産業保健師として配属された部署では、保健師は私一人。上司や同僚は健康管理の専門家ではなく、保健師の業務内容やその重要性への理解が十分でないと感じることが多々ありました。健康よりも業務効率や生産性を優先するような考え方に触れることもあり、従業員の健康を守るという使命感との間で板挟みになることもありました。相談できる保健師の同僚もいないため、一人で抱え込んでしまう時期が続きました。また、看護師時代とは異なる企業特有の文化や人間関係の力学にも戸惑い、馴染むのに時間がかかりました。」
Bさんのケースのように、産業保健師は企業内で唯一の医療専門職となることも珍しくありません。そのため、専門職としての意見を理解してもらい、組織の中で円滑に業務を進めるためのコミュニケーション能力や調整力が、看護師時代以上に求められることがあります。行政保健師の場合でも、縦割り組織や異動の多さ、独特の慣習など、看護師時代の職場とは異なる人間関係の難しさに直面する可能性はあります。
思ったようにキャリアアップできなかったCさん
Cさんは、看護師としての臨床経験を活かし、より専門性を高めたいと考え、保健師資格を取得し市町村の保健センターに転職しました。しかし、数年経っても、思い描いていたようなキャリアアップが実現できず、将来への不安を感じています。
「看護師には、認定看護師や専門看護師といったキャリアアップの道筋があり、専門性を深めるための研修制度も充実していました。保健師にも専門性を高める道はあるのですが、看護師ほど選択肢が多くなく、自治体によっては研修参加の機会も限られていると感じます。異動によって、ようやく慣れてきた業務や築き上げた関係性をリセットしなければならないこともあります。また、昇進についても、必ずしも保健師としての専門性が評価されるとは限らず、年功序列的な側面や他の行政職と同様のキャリアパスを歩むことが多いように感じます。」



行政保健師は数年ごとに部署異動があるのが一般的です。様々な分野を経験できるというメリットがある反面、一つの分野を突き詰めることが難しい面もあります。
Cさんは、保健師としての専門性をどう高めていくか、将来的なキャリアパスをどう描くかについて、具体的なイメージを持てずに悩んでいます。転職前に、保健師のキャリアパスや研修制度、給与体系について、もっと詳しく調べておくことが大切です。
看護師から保健師への転職で後悔しないための3つのポイント


看護師から保健師への転職は、キャリアチェンジの大きな一歩です。しかし、事前の準備や理解が不足していると、「こんなはずではなかった」と後悔につながる可能性があります。ここでは、転職後に後悔しないために押さえておくべき3つの重要なポイントを解説します。
- 保健師の仕事内容を正しく理解する
- 自分の強み・弱みを分析する
- 転職活動の準備を万全にする
保健師の仕事内容を正しく理解する
転職後の後悔で最も多いのが、仕事内容に関するギャップです。「思っていた仕事と違った」「看護師の経験が活かせない」と感じてしまうケースです。これを防ぐためには、保健師の役割や業務内容を深く、そして正確に理解することが不可欠です。
保健師の仕事内容を詳しく調べる
保健師も、働く場所によってその役割や業務内容は大きく異なります。主な活躍の場としては、地域住民の健康を支える「行政保健師」、企業で働く従業員の健康管理を行う「産業保健師」、児童・生徒や教職員の健康を守る「学校保健師」などがあります。
それぞれの対象者、目的、具体的な業務内容を事前にしっかりと調べ、比較検討しましょう。
保健師の種類 | 主な職場 | 主な対象者 | 主な仕事内容 |
行政保健師 | 保健所、市町村保健センター | 地域住民全般(乳幼児から高齢者まで) | 健康相談、家庭訪問、健康教育、感染症対策、母子保健、精神保健、難病対策など |
産業保健師 | 一般企業、健康保険組合 | 従業員、その家族 | 健康診断後のフォロー、メンタルヘルス対策、健康相談、職場環境改善、健康教育、休職・復職支援など |
学校保健師 | 私立学校(※公立学校は主に養護教諭)、大学、専門学校 | 児童、生徒、学生、教職員 | 健康相談、応急処置、健康診断の補助、保健指導、感染症予防、学校保健計画の立案・実施など |
自分がどの分野で、どのような対象者に対して、どんな関わり方をしたいのかを具体的にイメージすることが重要です。



看護師時代の経験と照らし合わせ、どの分野であれば自分のスキルや興味を活かせそうか考えてみましょう。
保健師の1日の流れを把握する
具体的な仕事内容と合わせて、1日のスケジュールや働き方のイメージを持つことも大切です。それぞれのスケジュール例は以下のとおりです。
- 行政保健師
- 午前中は事務処理や電話相談、午後は家庭訪問や健康教室の開催といった流れが一般的ですが、担当地区や事業によって変動します。
- 産業保健師
- 定期的な面談や健康診断の準備・実施、安全衛生委員会への参加などが中心です。
- 学校保健師
- 生徒の登校時間から下校時間までが主な勤務時間となり、突発的な対応も求められます。



求人情報やOB/OG訪問、職場見学などを通して、リアルな働き方を把握するように努めましょう。
保健師のやりがいと大変さを知る
どんな仕事にも、やりがいと大変さの両面があります。保健師の仕事は、病気の予防や健康増進を通じて人々の生活に長期的に関われる点、地域や組織全体の健康レベル向上に貢献できる点に大きなやりがいがあります。
一方で、対象者の抱える問題が複雑化していたり、すぐには成果が見えにくかったりすること、多職種との連携や調整業務が多いこと、事務作業が多いことなどに大変さを感じる人もいます。
転職してから「こんなはずではなかった」とならないよう、良い面だけでなく、大変な面も理解しておくことが重要です。
側面 | 具体例 |
やりがい | 病気の予防や健康増進に直接関われる 地域や組織全体の健康課題に取り組める 対象者と長期的な関係性を築ける 多様な年代、背景を持つ人々と関われる 企画・立案から実行まで主体的に関われる業務がある |
大変さ | 病気の予防や健康増進に直接関われる 地域や組織全体の健康課題に取り組める 対象者と長期的な関係性を築ける 多様な年代、背景を持つ人々と関われる |
自分の看護師としての経験を振り返る
保健師への転職を考える上で、これまでの看護師経験は大きな財産です。どのような場面でやりがいを感じ、どのような業務に興味を持っていたかを具体的に振り返ってみましょう。
患者やその家族への退院指導や生活指導、予防的なケア、精神的なサポートなどに力を入れていた経験は、保健師の業務に活かせる可能性があります。また、多職種連携やリーダー経験などもアピールポイントになります。
自分の経験と保健師の仕事を結びつけ、「なぜ保健師になりたいのか」「保健師として何をしたいのか」を明確にすることが、後悔しない転職への第一歩です。
自分の強み・弱みを分析する
保健師の仕事を理解したら、次に「自分自身」を深く知ることが重要です。自分の性格、価値観、得意なこと、苦手なことを客観的に分析し、保健師という仕事や目指す職場環境とマッチするかどうかを見極めましょう。



自己分析が不十分だと、入職後に「自分には合わない仕事だった」「この職場は働きにくい」と感じてしまう原因になります。
保健師に必要なスキルを理解する
保健師には、看護師とは異なるスキルも求められます。もちろん、看護師として培ったアセスメント能力やコミュニケーション能力は基礎となりますが、それに加えて以下のようなスキルが重要になります。
必要なスキル | 具体的な内容 |
コミュニケーション能力 | 対象者(個人・集団)や関係機関との円滑な意思疎通、傾聴力、説明力、交渉力 |
アセスメント能力 | 個人だけでなく、地域や集団の健康課題を多角的に分析・評価する力 |
調整能力・連携力 | 多様な関係者(医師、ケアマネジャー、行政担当者、企業担当者など)と連携し、合意形成を図る力 |
企画力・実行力 | 健康課題解決のための事業やプログラムを立案し、実行する力 |
教育・指導力 | 健康教育や保健指導を効果的に行うための知識と技術 |
事務処理能力 | 報告書作成、データ管理、各種申請手続きなどを正確かつ効率的に行う力 |
課題解決能力 | 複雑な健康課題に対して、多角的な視点から解決策を見出す力 |
これらのスキルと自分の経験や能力を照らし合わせ、現時点でどの程度備わっているか、今後どのように伸ばしていきたいかを考えましょう。
特に看護師経験だけでは不足しがちな企画力や調整能力、事務処理能力などは、意識的に習得していく必要があります。
自分に合った保健師の職場を見つける
保健師が活躍する場は多岐にわたります。職場によって対象者、業務内容、働き方、求められるスキル、組織文化などが大きく異なります。
自分の強みや価値観、ライフプランに合った職場を選ぶことが、長期的に活躍し、後悔を防ぐためには重要です。
職場 | 特徴 | 向いている可能性のある人 |
行政保健師 | 公務員としての安定性 幅広い年代・分野の地域住民が対象 母子保健、感染症対策、難病支援など多様な業務 異動により様々な経験が積める 地域への貢献を実感しやすい | 地域貢献に関心が高い 多様な業務にチャレンジしたい 安定した環境で働きたい 幅広い知識を身につけたい |
産業保健師 | 企業の従業員の健康管理が中心 メンタルヘルス対策の比重が大きい傾向 予防医療に重点を置いた活動 企業の福利厚生や給与水準が適用される 求人数が比較的少ない | 働く人の健康支援に関心が高い メンタルヘルスケアに興味がある 企業組織の中で専門性を発揮したい 比較的高い給与水準を求める |
学校保健師 | 児童・生徒・学生の心身の健康管理 養護教諭と連携(または兼務) 急な体調不良や怪我への対応 長期休暇がある場合が多い | 子どもや若者の成長に関わりたい 教育現場での健康支援に興味がある ワークライフバランスを重視したい(長期休暇) 突発的な対応にも柔軟に対応できる |
地域全体への貢献に関心があれば行政保健師、働く人のメンタルヘルスに関心があれば産業保健師、子どもたちの成長を見守りたいなら学校保健師、といったように、自分の興味や関心、価値観と照らし合わせて検討しましょう。



給与や待遇、ワークライフバランスなどの条件面も重要ですが、仕事内容や組織文化との相性も考慮に入れることが大切です。
転職活動の準備を万全にする
保健師の仕事内容と自己分析を踏まえ、いよいよ転職活動の準備です。情報収集から応募書類の作成、面接対策まで、一つひとつ丁寧に進めることが、希望通りの転職を実現し、後悔を防ぐためのポイントになります。
面接対策をしっかり行う
保健師の採用面接では、看護師の面接とは異なる視点で質問されます。「なぜ看護師ではなく保健師なのか」「保健師として何をしたいのか」「これまでの看護師経験をどう活かせるか」といった点は、必ずと言っていいほど聞かれる質問です。これまでの自己分析や仕事内容の理解に基づき、自分の言葉で具体的に、そして熱意を持って答えられるように準備しましょう。
よく聞かれる質問例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 保健師を志望した理由
- 当自治体(または企業、学校)を志望した理由
- これまでの看護師経験で得たこと、活かせること
- あなたの強みと弱み
- ストレス解消法
- 健師として取り組みたいこと、キャリアプラン
- (行政の場合)関心のある地域課題
- (産業の場合)メンタルヘルス対策についてどう考えるか
- 逆質問(何か質問はありますか?)
想定される質問に対して、具体的なエピソードを交えながら回答を準備し、模擬面接などで練習しておくと、本番でも落ち着いて対応できます。
職場見学で職場の雰囲気を知る
求人票やウェブサイトの情報だけでは、実際の職場の雰囲気や人間関係までは分かりません。可能であれば、応募前や面接の機会に職場見学をさせてもらいましょう。実際に保健師が働いている様子を見たり質問したりすることで、入職後のイメージをより具体的に持つことができます。
見学時には、以下のような点を確認すると良いでしょう。
- 働いている保健師の年齢層や雰囲気
- 他の職員(事務職、医師、看護師など)との連携の様子
- 業務の進め方(個人で進めることが多いか、チームで協力することが多いか)
- 職場の設備や環境(執務スペース、相談室など)
- 教育体制や研修制度の有無
- 残業の状況(可能であれば)
見学を通して感じたことが、自分に合う職場かどうかを判断する重要な材料になります。疑問に思ったことは積極的に質問し、納得した上で選考に進むことが大切です。
転職エージェントを活用する
保健師の求人は、行政機関のウェブサイトやハローワークなどで公開されているものもありますが、特に産業保健師や学校保健師の求人は、非公開で転職エージェントが扱っているケースも少なくありません。転職エージェントを活用することで、自分では見つけられなかった求人に出会える可能性があります。
転職エージェントは求人紹介だけでなく、応募書類の添削や面接対策、給与などの条件交渉の代行といったサポートも提供してくれます。特に保健師への転職が初めてで不安な場合や、働きながら効率的に転職活動を進めたい場合には、心強い味方となるでしょう。
ただし、エージェントによって得意な分野(行政に強い、産業に強いなど)やサポートの質が異なります。複数のエージェントに登録し、自分に合った担当者を見つけることが重要です。


看護師から保健師への転職で後悔したときの対処法


期待を胸に看護師から保健師へ転職したものの、「こんなはずではなかった」と後悔することは少なくありません。
しかし、後悔の気持ちを引きずったままでは、前向きに仕事に取り組むことは難しいでしょう。ここでは、転職後に後悔を感じたときの具体的な対処法を解説します。
- 今の職場でできることを探してみる
- 相談できる相手を見つける
- 転職も視野に入れて行動する
今の職場でできることを探してみる
転職してすぐに「辞めたい」と考えるのは早計です。まずは、なぜ後悔しているのか、その原因を冷静に分析してみましょう。



給与面、仕事内容、人間関係、キャリアパスなど、原因によって対処法は異なります。
原因を特定したら、今の職場で改善できる点がないか探ってみましょう。例えば、以下のような行動が考えられます。
- 上司や先輩に相談する
- 業務内容の調整や部署異動の希望など、まずは相談してみることで解決の糸口が見つかる可能性があります。特に人間関係の悩みは、配置転換などで改善されるケースもあります。
- 業務改善提案を行う
- 仕事内容にギャップを感じている場合、非効率な業務プロセスや改善点があれば、積極的に提案してみましょう。主体的に関わることで、仕事へのやりがいを見出せるかもしれません。
- 研修や勉強会に参加する
- スキルアップや知識不足に不安を感じているなら、職場内外の研修や勉強会に積極的に参加しましょう。新しい知識や視点を得ることで、仕事への向き合い方が変わる可能性があります。自治体や企業によっては、資格取得支援制度などが用意されている場合多いです。
- 保健師としての経験を積む意識を持つ
- たとえ現状に不満があったとしても、保健師としての実務経験は、今後のキャリアにおいて必ず役に立ちます。特定の分野での経験を深める、様々なケースに対応するなど、目標を設定して経験を積むことに集中するのも一つの方法です。
すぐに諦めずに、まずは現職でできる限りの努力をしてみることが大切です。



状況が改善する可能性もありますし、たとえ改善しなくても、その経験は次のステップに進むための糧となります。
相談できる相手を見つける
一人で悩みを抱え込んでいると、視野が狭くなり、客観的な判断が難しくなりがちです。信頼できる人に相談することで、気持ちが楽になったり、新たな視点や解決策が見つかったりすることがあります。
相談相手としては、以下のような人が挙げられます。
- 職場の同僚や先輩保健師
- 同じ職場で働く仲間であれば、具体的な状況を理解してもらいやすく、共感や実践的なアドバイスを得られる可能性があります。ただし、相談内容や相手は慎重に選びましょう。
- 学生時代の友人や元同僚(看護師・保健師)
- 気心の知れた相手であれば、本音で話しやすいでしょう。異なる視点からの意見が聞けるかもしれません。
- 家族やパートナー
- 最も身近な存在として、精神的な支えになってくれるでしょう。ただし、仕事内容の詳細まで理解してもらうのは難しい場合もあります。
- キャリアコンサルタント
- キャリアの専門家として、客観的な立場からあなたの状況を分析し、今後のキャリアプランについて具体的なアドバイスを提供してくれます。
- 公的な相談窓口
- 職場の人間関係や労働条件に関する悩みであれば、各都道府県労働局などに設置されている総合労働相談コーナーなどを利用するのも有効です。専門の相談員が対応してくれます。
誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちの整理がつき、前向きな気持ちを取り戻せるきっかけになります。一人で抱え込まず、積極的に相談相手を見つけましょう。
転職も視野に入れて行動する
現職での改善努力をしても状況が変わらない、あるいはどうしても今の職場環境や仕事内容が合わないと感じる場合は、転職を再度検討することも有効な選択肢です。



ただし、後悔を繰り返さないためには、慎重な準備が必要です。
前回の転職での反省点を踏まえ、なぜ後悔したのかを深く掘り下げて分析しましょう。その上で、次のステップを考えます。
転職の方向性としては、主に以下の3つが挙げられます。
1.別の保健師職場への転職
今の職場が合わないだけで、保健師の仕事自体は続けたい場合です。行政保健師、産業保健師、学校保健師など、保健師が活躍する場は多岐にわたります。それぞれの仕事内容、働き方、待遇などを十分に比較検討し、自分に合った職場を選びましょう。
2.看護師への復帰
保健師の仕事内容や働き方がどうしても自分に合わないと感じた場合、看護師に戻るという選択肢もあります。看護師としての経験やスキルは決して失われるものではありません。ブランクがある場合は、復職支援プログラムなどを活用するのも良いでしょう。
3.保健師資格を活かせる「保健師以外」への転職
保健師資格や看護師経験を活かせるフィールドは、臨床や公衆衛生の現場だけではありません。例えば、以下のような職種も考えられます。
職種例 | 主な仕事内容 | 活かせるスキル・経験 |
クリニカルスペシャリスト(CS)/フィールドナース | 医療機器メーカーなどで、自社製品に関する医療従事者への説明や使用トレーニング、営業支援を行う。 | 担当分野の専門知識、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力 |
治験コーディネーター(CRC) | 医療機関で、治験(新薬開発のための臨床試験)がスムーズに行われるよう、医師、製薬会社、被験者の間の調整役を担う。 | 臨床経験、コミュニケーション能力、調整力、PCスキル |
ヘルスケア関連企業の企画・開発職 | 健康増進サービス、健康管理アプリ、健康食品などの企画・開発に、医療・健康の専門知識を活かす。 | 専門知識、企画力、マーケティング知識、コミュニケーション能力 |
メディカルライター | 医学・薬学に関する専門知識を活かし、論文、記事、販促資材などの文章を作成する。 | 専門知識、文章力、情報収集力 |
いずれの道を選ぶにしても、まずは情報収集が重要です。求人サイトや転職エージェントを活用したり、興味のある分野で働く人の話を聞いたりしてみましょう。



ハローワークインターネットサービスなども情報収集に役立ちます。
看護師から保健師への転職に関するよくある質問


看護師から保健師への転職を考える際、多くの方が疑問に思う3つの点について解説します。
- 保健師の仕事は大変ですか?
- 看護師から保健師への転職は難しいですか?
- 保健師の資格を活かせる他の仕事はありますか?
保健師の仕事は大変ですか?
保健師の仕事が「大変」と感じるかどうかは、個人の価値観や看護師時代との比較によって異なりますが、一般的に以下の5つの点で大変さが挙げられます。
1.精神的な負担
住民や従業員の多様な健康課題や悩みに向き合い、時には深刻なケース(虐待、精神疾患、生活困窮など)に対応することもあります。共感力が求められる一方で、感情移入しすぎないバランス感覚が必要です。
2.調整業務の多さ
対象者だけでなく、その家族、関係機関(医療機関、学校、企業、行政部署など)との連携や調整が業務の多くを占めます。板挟みになることや、スムーズに進まないことも多い仕事です。
3.成果が見えにくい
病気の治療とは異なり、健康増進や予防活動はすぐに結果が出るものではありません。長期的な視点が必要であり、目に見える成果を感じにくいことにもどかしさを感じる場合があります。
4.事務作業の多さ
相談記録、報告書作成、データ入力、資料作成など、デスクワークの割合が看護師の臨床業務より多い傾向にあります。
5.責任の重さ
特に行政保健師の場合、地域全体の健康を守るという広範な責任を負います。施策の企画・実行・評価など、看護師とは異なる種類のプレッシャーがあります。
一方で、夜勤がなく規則的な勤務形態が多いこと、地域や組織全体の健康づくりに貢献できること、多様な人々と関わり視野が広がることなど、看護師とは異なるやりがいも多くあります。大変さの種類が看護師とは異なる点を理解しておくことが重要です。



保健師の具体的な業務内容については、厚生労働省の職業情報提供サイトなども参考になります。
看護師から保健師への転職は難しいですか?
看護師から保健師への転職は、いくつかの側面で「難しい」あるいは「簡単ではない」と言えます。
- 資格取得の難しさ
- 保健師国家試験の受験資格を得るために、保健師養成課程(大学、専門学校など)で1年以上の専門教育を受ける必要があります。看護師免許取得後に改めて学校に通う必要があり、時間と費用がかかります。
- 求人数の少なさ
- 看護師と比較すると、保健師の求人数は限られています。特に人気の高い行政保健師(公務員)や大手企業の産業保健師の常勤求人は競争率が高くなる傾向があります。
- 求められるスキルの違い
- 看護師の臨床スキルとは異なり、保健師にはコミュニケーション能力、多職種連携のための調整力、企画・立案能力、データ分析力、プレゼンテーション能力、事務処理能力などがより重視されます。これらのスキルに対する適性や、新たに習得する意欲が求められます。
- 公務員試験(行政保健師の場合)
- 行政保健師を目指す場合は、地方公務員試験(教養試験、専門試験、論文、面接など)に合格する必要があります。看護師国家試験とは異なる対策が必要です。
しかし、看護師としての臨床経験や医療知識は、保健師の業務において大きな強みとなります。



対象者の健康状態をアセスメントする力や、医療機関との連携において看護師経験が役立ちます。
転職が難しい側面を理解した上で、しっかりとした情報収集と準備(自己分析、応募書類作成、面接対策など)を行えば、転職を実現することは十分に可能です。
保健師の資格を活かせる他の仕事はありますか?
保健師の資格や知識、経験は、保健師として働く以外にも様々な分野で活かすことができます。保健師資格が必須ではない場合もありますが、専門性が高く評価される職種は多く存在します。
分野 | 職種例 | 活かせるスキル・知識 |
企業 | 産業保健スタッフ(保健師資格必須の場合が多い) 健康経営コンサルタント ヘルスケア関連企業(商品開発、マーケティング、営業支援) 治験関連企業(CRA:臨床開発モニター、CRC:治験コーディネーター) コールセンター(健康相談) | 健康管理、メンタルヘルス対策、健康教育、労働安全衛生法知識、コミュニケーション能力、医療知識、臨床試験に関する知識 |
教育機関 | 養護教諭(別途、養護教諭免許が必要な場合が多い) 看護系大学・専門学校の教員 | 学生の健康管理、保健指導、救急処置、看護教育、臨床経験 |
介護・福祉 | 地域包括支援センター職員 ケアマネージャー(介護支援専門員) 社会福祉協議会職員 | 高齢者の健康管理、介護予防、多職種連携、ケアプラン作成知識、地域ネットワーク構築力 |
医療機関・健診機関 | 健診センターの保健師・看護師 病院の退院調整部門、患者相談室 | 健診結果の説明、特定保健指導、生活習慣改善指導、医療連携、社会資源に関する知識 |
その他 | 保険会社(保険査定、健康増進サービス) NPO/NGO(健康支援プロジェクト) フリーランス(健康セミナー講師、ヘルスケアライター) | リスク評価、健康情報提供、企画・運営能力、文章力、専門知識の発信力 |
これらの職種では、保健師として培った「人々の健康を守り、支える」という視点や、予防的な観点、コミュニケーション能力、調整力などが高く評価されます。



保健師としてのキャリアに悩んだ場合でも、資格や経験を活かせる道は多様にあることを知っておくと良いでしょう。
まとめ


看護師から保健師への転職では、給与面や仕事内容、人間関係などで後悔を感じる可能性があります。体験談にもあるように、理想と現実のギャップに苦しむ方も少なくありません。
しかし、事前に保健師の役割や業務内容を深く理解し、自己分析をしっかり行い、転職活動を丁寧に進めることで、後悔するリスクは軽減できます。万が一、転職後に後悔を感じたとしても、対処法はあります。後悔のないキャリアチェンジのためには、十分な情報収集と準備が不可欠です。
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