治験コーディネーターは、治験を安全でスムーズに進めるために欠かせない人材です。
看護師としてのスキルを十分に発揮することができる治験コーディネーターですが、病院での働き方とは異なるためデメリットもあります。本記事では治験コーディネーターに必要なスキルや給料事情、メリット・デメリットを詳しく解説します。この記事を読めば、あなたのスキルが治験コーディネーターとして活かせるかどうかの判断基準にできるでしょう。
看護師で治験コーディネーターに興味があるという方は、ぜひ参考にしてください。
治験コーディネーターとしての看護師の仕事内容
治験コーディネーターとしての看護師の仕事内容は、関係職種との連携や治験スケジュールの調整、被験者対応、治験報告書の作成などデスクワークが中心です。
具体的な治験コーディネーターの仕事は以下の3段階に分けられます。
- 治験の事前準備
- 治験中の業務
- 治験後の報告書作成
この3段階の業務について以下の表にまとめています。
主な業務 | 具体的な仕事内容 |
---|---|
1.治験前の事前準備 | ・治験実施計画書の読み込み ・被験者の募集とスクリーニング ・関係部署とのミーティングの調整 ・ミーティングに必要な資料作成 |
2.治験中の業務 | ・被験者対応(診察同席、説明の補助) ・同意書作成の補助 ・検査や投薬スケジュールの作成と管理 ・治験薬や検査キットの管理や準備 ・治験データの記録 |
3.治験後の報告書作成 | ・記録手順に基づいた報告書の作成 |
治験コーディネーターの看護師は、SMO(Site Management Organization:治験施設支援機関)または、大学病院などで活躍しています。
大学病院などの治験コーディネーターの求人は少なく、病院に勤務する看護師が院内治験コーディネーターとして異動するケースが多いです。SMOに所属する治験コーディネーターは病院やクリニックに派遣され、業務にあたります。特に学歴や資格などの規定はありませんが、薬や疾患などに詳しい薬剤師や看護師、検査技師などの医療資格を持つ人の割合が50%以上1です。
治験コーディネーターは無資格でもできますが、専門的な知識が求められる仕事なので医療従事者から転職するケースが多い職業です。
治験コーディネーターは被験者の対応や、倫理的配慮、関係各社との連携など看護師として培った能力を存分に発揮できる職種と言えるでしょう。
看護師と治験コーディネーターの給料の違い
厚生労働省によると令和5年の治験コーディネーターの年収は459万円2、看護師全体の年収499万円3で40万円ほどの差があります。看護師の病院規模別の平均年収は以下のとおりです。
病院規模 | 10人〜99人 | 100〜999人 | 1000人以上 |
月収 | 32万1100円 | 34万2300円 | 37万6500円 |
賞与 | 67万3700円 | 75万6400円 | 105万3200円 |
年収 | 452万6900円 | 486万4000円 | 557万1200円 |
治験コーディネーターは夜勤がないため、夜勤をする病院などの看護師と比較すると給料は低くなってしまうのが現状です。
一方で、日勤だけで見た場合は比較的高い水準の給料であると言えます。
看護師の給料の良し悪しは夜勤手当で決まると言っても過言ではありません。夜勤がない分低く見えますが、日勤のみの条件で見れば決して低くありません。
ただしハローワークの求人データ(令和4年)では求人賃金が23万円と、能力や経験により給料が異なるため数年は年収が低くなる可能性があるので注意しましょう。
就業してから認定試験を受けるなどのスキルアップも可能で、能力次第では報酬アップも狙える職業です。
看護師が治験コーディネーターへ転職する際に必要なスキル・知識
看護師が治験コーディネーターへ転職する際に、どんなスキルが必要なのか気になる方も多いでしょう。
大前提として治験コーディネーターはデスクワークが多くなるため、パソコンスキルは欠かせません。
看護師が治験コーディネーターへ転職する際に必要なスキルと知識を3つご紹介します。
PCによる事務処理能力
治験コーディネーターとして看護師が働く場合、報告書やミーティングの資料、スケジュール表などを作成するための事務処理能力は必要不可欠です。
PCによる事務処理能力 |
タイピング パソコン内での書類、データの整理整頓術 ワード、エクセル、パワーポイント |
仕事の効率を上げるために最低限タイピングトレーニングをしておくと良いでしょう。治験ごとに資料や書類が多くなるため、パソコン内の整理整頓術も身につけることも大切です。パソコン操作に不慣れな場合、仕事内容を覚えることに専念できなくなります。
具体的にはワードやエクセル、パワーポイントが使用できれば治験コーディネーターとして就業してからもスムーズに仕事を進められるでしょう。
パソコン操作に関しては基本的な操作方法さえ分かっていれば大きな問題はないといえます。
コミュニケーション能力
治験コーディネーターは、治験を円滑に進めるために治験に関わるすべての人と密にコミュニケーションを取る必要があります。被験者の生活習慣の聞き取りや、治験薬投与中の被験者にトラブルや不安がないか注意深く情報収集をしなければなりません。治験を安全に行うためには、被験者に治験スケジュールや注意点などを分かりやすく説明する必要があります。
製薬会社や関連病院については電話やメールでの対応も多く、看護師としてのコミュニケーションのみではなくビジネスマナーも必要です。
対象に合わせたコミュニケーションスキルが必要ですが、様々な人と関わりたいという方にはおすすめの職業です。
「コーディネーター」と呼ばれるくらいなので、看護師と比べてもコミュニケーションを図る対象は多いです。いろんな立場の人とトラブルなく接する能力は想像以上に大切です。
薬学や薬機法に関する知識
治験に関わる製薬会社や医療機関は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)とGCP(医薬品の臨床試験の実施に関する省令)を遵守し就業しなければなりません。認証試験をパスするためにはルールを徹底しなければならないので、薬学や薬機法、GCPについては理解しておきましょう。
医師や製薬会社と専門的な会話ができると、信頼関係を築くことも可能です。医師も治験に関しては分からないことが多いので、サポートできるように知識を身につけておくと仕事に役立てることが出来ます。
看護師といえど薬機法などを深く理解している人はあまりいないでしょう。ですが医療の現場で働いているなかで触れる機会は多く、理解を深めるのに大きな抵抗がないのは看護師のメリットです。
看護師が治験コーディネーターになるメリット
看護師が治験コーディネーターになるメリットはワークライフバランスが取りやすいことと、仕事にやりがいがあることが挙げられます。治験コーディネーターになるメリットを詳しく見てみましょう。
夜勤がない
治験コーディネーターは日勤のみの業務で、病院看護師のように夜勤がありません。比較的残業も少ないですが診療後に医師との打ち合わせが入ったり、被験者対応が夕方になったりすることがあります。トラブルがあった際や、被験者から問い合わせがある場合には家でも対応しなければならないケースがある点に注意が必要です。
治験コーディネーターは直行直帰できることも多く、慣れてくれば自分の采配次第である程度スケジュールをコントロール可能です。
フレックスタイム制を取り入れているSMOも多く、ワークライフバランスをとりやすい職業と言えるでしょう。
夜勤が苦手な方、子供がいて夜勤をできない方にはおすすめです。働き方の自由度は看護師よりも高いといえます。
被験者の疾患の治癒や症状の緩和を実感できる
治験コーディネーターは、被験者の疾患の治癒や症状の緩和などプラスの変化を近くで見守ることができます。
実際に治験薬を受けた被験者の状態がよくなっていく過程を見ることができるので、仕事のモチベーションにも繋がります。
看護師としては目の前の患者がよくなっていく姿を見られるのは大きな喜びのひとつでしょう。
病棟勤務でも患者さんの回復を実感することが大きなやりがいのひとつですよね。治験コーディネーターも「新薬の開発」という観点から疾病の治癒へアプローチできるのでやりがいは抜群です。
新薬の開発を通してやりがいが持てる
実際に治験コーディネーターとして関わった治験薬が、新薬として認証された際には大きな達成感を得ることが出来ます。新薬が認証されれば、これまで完治が難しかった症例でも多くの人を救うことが可能になり、社会貢献できているというやりがいを持てるでしょう。
新薬開発を通してのやりがいは、普通に看護師をしているとなかなか得ることはできません。日進月歩の医療の現場で最新の医療を学べるので、看護師としては大きなステップアップになります。
看護師が治験コーディネーターになるデメリット
治験コーディネーターとして働く場合、いくつかのデメリットもあります。
勤務時間帯や業務内容など、治験コーディネーターと看護師では働き方が全く異なるため、慣れるまでは戸惑うことも多いです。看護師が治験コーディネーターになるデメリットを確認しておきましょう。
臨床でのスキルや知識が身につかない
看護師が治験コーディネーターになると、臨床でのスキルや知識が身につかないというデメリットがあります。
SMOに所属して医療機関へ派遣される治験コーディネーターは、看護師であっても医療行為をすることはありません。治験では採血や生理機能検査、画像検査など多くの検査や処置を必要としますが、実際に検査を行うのは医療機関の看護師や検査技師です。
治験コーディネーターを経て看護師へ戻る人も多く存在します。何年か治験コーディネーターとして勤務した後に、看護師として病院へ転職する際はブランクを感じることがあるでしょう。ただし、治験コーディネーターとして働いた経験が全く活かせないわけではなく、薬学に関する専門性やコミュニケーション能力は臨床の現場でも役立つスキルとして活かせるでしょう。
収入が下がる可能性がある
病院看護師から、治験コーディネーターへ転職すると収入は下がる傾向にあります。
治験コーディネーターは夜勤がないため、看護師全体の平均と比較すると年収は低いのが現状です。未経験で治験コーディネーターに転職すると、平均求人賃金は23万円と看護師の中では低い水準であると言えます。年収は経験や能力、症例契約数などにより給料が大きく左右されます。最初の数年は特に年収が下がる可能性があることを念頭に置いておきましょう。
大手の企業へ転職したり公認CRC・認定CRCを取得したりと、年収を大きく上げる方法はあります。
SMOで管理者クラスになれば年収600〜700万円も可能です。
デスクワークが多い
治験コーディネーターの仕事は7割がデスクワークと言われるほど、事務作業が多い職業です。
看護師として勤務していると、座ってカルテを記載する時間もないほど動き回ることが多いので、事務作業に慣れていない方は苦痛に感じることがあります。眼精疲労や、肩こり、腰痛などの今までとは違う肉体的苦痛を伴う可能性もあります。
パソコン作業に慣れている方や、コツコツと一つのことを時間をかけて達成することが好きな人には向いている職業です。
看護師が治験コーディネーターへ転職する際の注意点
看護師が治験コーディネーターへ転職する際には以下の点に注意すると成功しやすくなるでしょう。
- 研修制度が充実している職場を選ぶ
- 転職後も意欲的に学ぶ姿勢が必要
- 転職エージェントからアドバイスをもらう
特に治験に携わったことがない場合は未知の世界に飛び込むことになるため、注意点を確認しておきましょう。
研修制度が充実している職場を選ぶ
看護師が治験コーディネーターに転職する際は、研修制度が充実している職場を選ぶのが懸命です。研修期間や内容は各SMOによって異なりますが、ビジネスマナーやGCPの確認や治験の基礎知識などを座学で学びます。最初は先輩と一緒に病院に配属され、治験コーディネーターのアシスタントとしてOJTで勉強していくケースが多いです。
OJTの期間もSMOによって様々なので、入社後の研修制度については確認するようにしましょう。
「未経験者歓迎」のように、未経験者を積極的に募集している職場は研修制度が整っているケースが多いです。
転職後も意欲的に学ぶ姿勢が必要
看護師が治験コーディネーターになるためには薬機法やPC操作など、転職後も多くのことを学ぶ必要があります。
治験コーディネーターは複数の治験プロジェクトを掛け持つことが多く、常に新たな知識を常に取り入れていかなければなりません。これらの知識は研修やOJTで学べる部分もあれば、自分の時間を割いて学習する必要があります。
疾患や新しい治療法など常に情報を入手しておく必要があるので、常に向上心を持って学び続けられる人は治験コーディネーターとして信頼される人材として重宝されるでしょう。
常に知識やスキルのアップデートが必要なのは看護師も同じですよね。
看護師として実務経験があれば、学び続ける意識付けに関しては抵抗なく受け入れられるでしょう。
転職エージェントからアドバイスをもらう
治験コーディネーターへ転職を考えている看護師は転職エージェントからアドバイスをもらうのがおすすめです。転職エージェントではプロのキャリアアドバイザーが転職に関する以下のサポートを無料で行ってくれます。
看護師転職エージェントの主なサポート内容 |
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転職の悩みや希望条件のヒアリング ヒアリングの内容をもとにした求人紹介 応募先の病院や施設との面接日の調整 履歴書・職務経歴書の添削 面接対策のアドバイス 給与などの条件交渉の代行 転職後のアフターフォロー |
転職エージェントであれば年収や研修制度、職場の雰囲気など各SMOの内情も詳しく教えてくれます。
さまざまなヒアリングから自分の希望に合ったSMOを探してくれるので、後悔しない転職にするためにも転職エージェントに相談してみましょう。
転職エージェントは病院や施設からの紹介料で成り立っているため、我々は無料で利用できます。
私も転職エージェントに紹介してもらった施設への転職で100万円の年収アップを実現しました。
看護師から治験コーディネーターへの転職におすすめの転職エージェント3選
看護師から治験コーディネーターへ転職する際には、内情に詳しい転職エージェントに相談するのがおすすめです。
転職エージェントは自分と相性が合うのか不安という方もいるでしょう。相性については登録してみないとわからないことも多いため、本気で転職を考えている人は複数社登録してみるのもおすすめです。
ここからは治験コーディネーターへの転職におすすめの転職エージェントを3社ご紹介します。
レバウェル看護
レバウェル看護は年間4000回を超える職場訪問で得た内情も加味して求人を紹介してくれるので、求人だけではわからない働きやすい職場と出会える可能性が高いのが特徴です。
保有求人数が多く、幅広い選択肢から転職先を選びたい方にもおすすめです。
履歴書の添削や面接についてもアドバイスをくれるので、初めて治験コーディネーターに転職する人でも安心して面接に臨むことができます。
運営会社 | レバレジーズメディカルケア株式会社 |
公開求人数 | 15万件 |
対応地域 | 47都道府県 |
特徴 | ・保有求人数が多い ・派遣看護師の求人が多い ・年間4000回の職場訪問をしているので内情に詳しい |
レバウェル看護はLINEでの対応もしてくれるので、隙間時間を利用して自分のペースで転職活動ができます。
ナース人材バンク
ナース人材バンクの特徴は地域密着型で、それぞれの地域の転職事情に精通したキャリアアドバイザーが在籍しています。
キャリアアドバイザーが面接に同行してくれたり、希望条件に応じて応募先へ条件交渉をしてくれます。
条件や働きたい職場が明確に決まっている人は、地域担当のキャリアアドバイザーに「この職場はどうですか?」と聞いてみるのもおすすめです。
運営会社 | 株式会社エス・エム・エス |
公開求人数 | 1.7万件 |
対応地域 | 全国 |
特徴 | ・地域専門の転職エージェントが支援してくれる ・対応が迅速 ・履歴書や面接のサポートがあり安心 |
LINEでの対応も可能で、スピーディーに転職先を探したい方にはナース人材バンクがおすすめです。
看護師roo!
看護roo!のホームページでは「希望条件こだわり診断」というツールがあり、いくつかの質問に回答するだけで自分が潜在的に持っている希望条件を引き出せます。
転職にあたり、職場に求める条件の優先度がまだ明確にできていないと感じる方におすすめです。
病院以外の求人も豊富に扱っており、治験コーディネーターのように臨床看護師からのキャリアチェンジを目指す方にもおすすめの転職エージェントです。
キャリアパートナーに対する満足度も高く、初めて治験コーディネーターに転職する方は親身に相談に乗ってくれることで不安が解消されやすいといえるでしょう。
運営会社 | 株式会社クイック |
公開求人数 | 8.9万件 |
対応地域 | 全国 |
特徴 | ・ホームページにて看護師に役立つコンテンツが満載 ・病院以外の求人が豊富 ・履歴書や面接のサポートがあり安心 |
相談はLINEでも可能なので、電話対応が困難な場合でもスムーズに転職活動を進めることができます。
まとめ
治験コーディネーターは製薬会社や医師、被験者と関わり治験を円滑に安全に進めるサポート役で看護師の経験を活かせる職業です。対象に合わせたコミュニケーション能力や、事務処理能力、疾患や薬学に関する幅広い知識を求められるので向き・不向きはあると言えるでしょう。
治験コーディネーターは被験者の症状が緩和された時や治癒していく過程を近くで見ることができるので、看護師としてもやりがいのある仕事です。また、日勤のみの勤務であり、将来的に収入を大きく伸ばせる可能性のある魅力的な仕事です。
看護師が治験コーディネーターに転職をする際は、研修制度が充実しているSMOを選ぶのが懸命です。転職エージェントであればSMOの内情にも詳しいので、より希望にあった求人に出会うことが出来ます。
看護師で治験コーディネーターを目指している方はぜひ本記事を参考にしていただき、後悔のない転職を実現しましょう。
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